『プロ野球画報2015』著者・ながさわたかひろ独占インタビュー

公開日 2016/02/29

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「描くことでスワローズの力になる」という独自の応援スタイルで戦い続ける、美術家のながさわたかひろさん。2016年もヤクルトスワローズの春季キャンプ見学のために浦添市民球場を訪れた氏に、うらそえナビは直撃インタビューを敢行しました。2010年から東京ヤクルトスワローズの試合を描く活動を続けてきたながさわさんは、2016年1月に、2015年シーズンの記録をまとめた『プロ野球画報2015 東京ヤクルトスワローズ全試合』(雷鳥社)を出版したばかり。ご自身も初めて経験する優勝時のエピソードから、気になる入団交渉の内幕、2016年シーズンの展望、そしてながさわさんが考える新しいプロ野球ファン像まで、たっぷりと話を聞きました。

 

2015年シーズンを振り返る。
制作環境が整い、作品にも手ごたえ

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ーまずは2015年のセリーグ優勝おめでとうございます。改めて振り返って、優勝した瞬間はどのような心境でしたか。


ながさわさん:ありがとうございます。スワローズを描き続けて6年目、楽天時代を含めればそれ以上になりますが、プロ野球を題材に活動を続けてきて、応援チームの優勝は初めての経験ですから、それはもう、言葉では言い表せない喜びでした。この上ない達成感と充実感とでもいいましょうか…。その日はもちろん、明治神宮球場のライトスタンドで観戦していたのですが、周りのファンの人たちも、それはそれは大興奮で。ボクも一緒になって歓喜の輪に飛び込み、誰彼構わずハグを交わしていました。「この人誰だろう、知らないけど、まあいいや、優勝ヤッタぜ〜!ハグ!」みたいな(笑)。


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ーながさわさんは常々、「チームの状態と作品の出来栄えがリンクする」とおっしゃられてきました。そう考えると、2015年はシーズンを通して、良好なコンディションを保ちながら制作に打ち込めたのではないでしょうか。

 

ながさわさん:そうですね。ボク自身、2015年はシーズン当初からいろいろな巡り合わせが重なり、いい形でスタートを切ることができました。例えばスポーツメーカーのゼット社から、背番号「000」とボクの名前が入ったユニホームをいただいたり、神宮球場での開幕直前に、イラストを提供している「ゆるすぽ」から年間シートをプレゼントしてもらったり。特に年間シートは、神宮球場の中に自分の場所ができ、毎試合しっかり観戦できる環境が整ったという意味で、とても大きかったですね。


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ー開幕から絶好調だったんですね!

 

ながさわさん:それが不思議としばらくの間は、もう一つ感触がつかめなかったんですよね。いつもボクの絵を見てくれているファンの人たちも、「なんか違う。。」というリアクションが多くて。軌道修正し、手ごたえを感じられるようになるまで2カ月以上かかりました。

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ー原因は何だったのでしょう?

 

ながさわさん:2015年は試合中のハイライトだけではなく、その日のスタンドの様子や印象に残った光景など、ゲーム以外のことも絵に盛り込むようにしていました。さらに、大好評発売中の『プロ野球画報2015 東京ヤクルトスワローズ全試合』を見てもらうと分かりますが(笑)、毎試合イラストにひと言添えて、自分なりの感想を書きつづっていました。そうなると、おそらく目を向ける対象が多くなりすぎて、肝心のゲームに集中し切れていなかったのかもしれません。ゲームのポイントはしっかり押さえつつ、その周辺も描く。そうした力のバランスをつかむのに、少し時間がかかりました。


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ーそんなながさわさんとリンクするように、チームの成績も開幕後しばらくは安定せず、前半戦は順位変動が激しかった。ターニングポイントはどこにあったのでしょう?

 

ながさわさん:6月28日の館山(昌平投手)の復帰ですね。ケガを乗り越え、814日ぶりに登板を果たした館山に何とか白星をプレゼントしようと、チームの雰囲気も、スタンドの熱気もすごかった。その日は結局5回途中、1点リードを許した状態でマウンドを降りることになったのですが、それでも負けるわけにはいかない!とのムードが球場全体にみなぎり、終盤に逆転して勝利しました。あの日を境に、チームとファンが一丸となって優勝に突き進んでいったことは、間違いありません。作品の出来栄えも、チームが勢いを増すごとに手ごたえが大きくなっていきました。

 

日本シリーズで痛感したファンの課題。
もっと自由な応援スタイルの確立を

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ーセ・リーグ優勝を遂げた後、CS(クライマックスシリーズ)は順調に勝ち進みましたが、日本シリーズでは福岡ソフトバンクホークスに完敗でした。

 

ながさわさん:テレビやスポーツ紙でも報じられていた通り、完全に力負けした印象でした。福岡で2連敗して神宮へ戻ってきた第3戦で、山田の3打席連続ホームランが飛び出し勝利したときは「いけるんじゃないか!?」と思ったのですが…残念ながらそこまででしたね。もしかすると、リーグ優勝を果たした時点で気持ちが一度リセットされてしまい、シーズン終盤のようなパフォーマンスを発揮できなかったのかもしれません。2015年のセ・リーグは史上まれに見る大混戦で、最後まで気を抜けない戦いが続いていましたから。でも、そうした側面はチームだけではなく、ボクたちファンの間にもありました。応援が少しよそ行きになってしまったと感じています。

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ー普段通りの応援ができなかったということですか?

 

ながさわさん:実はちょっとした異変の予兆は、日本シリーズ前のCSのときから感じていました。最大の原因は、シーズン中は自由席だった外野席が、CSと日本シリーズでは指定席になり、チケット購入時に自動的に席が割り振られるようになったこと。

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ながさわさん:ほら、毎試合見に来るような熱心なファンは、ライトスタンドで観戦するでしょう?で、シーズン中は確かに自由席なんだけど、彼らは自分が応援する席の位置をだいたい決めているものなんですね。ボクを含め周りのファンもそれを承知していて、あの席には誰がいて、こっちの席にはあの人がいる、ということを何となく把握していた。それが突然、自由に席を選べなくなり、シーズン中とは違った雰囲気の中で応援せざるを得なくなった。ボクもCS以降は年間シートではなく、その日割り当てられた席に座ってスタンドの様子を眺めながら、どことなくぎこちなさを感じていました。

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ーホームなのにまるでアウェーの状況だった!

 

ながさわさん:でもそれは、ボクたちファンにとって一つの課題だと思っています。応援のスタイルは周りに合わせる必要はなく、鳴り物やシュプレヒコールだって、本来不要なものかもしれません。なかにはボクみたいに、一人静かに席に座って観戦したいという人も少なからずいるでしょうし。ボクはたまたま美術の世界で生きてきた人間だから、「絵を描いてチームの力になる」応援方法を模索してきただけで、他の人も同じように、一人一人がもっと自由なスタイルで楽しめばいいんじゃないかと思うんですよね。そうすれば、スタンドの雰囲気がどうであれ、よそよそしくなることなんてあり得ないわけですから。


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ー応援のスタイルは一つじゃないと…

 

ながさわさん:ハイ。そしてやっぱり、いちチームのいちファンである以前に、まずは純粋にプロスポーツとして、プレーをじっくり見ることが大事なんじゃないかと。それは2014年に日米野球を観戦したときに、強く感じたことでもあるのですが。何が違ったかって、両チームそれぞれの攻撃時の球場の雰囲気ですよ。日本チームの応援は、選手ごとにテーマソングが流れ、絶えず鳴り物が響くおなじみの光景だったのに対し、アメリカチームの攻撃時になると、球場全体が「シーン」と静まりかえったなかで、ゲームが進んでいくわけです。そして「カーン」という打球音だけが響き渡り、同時にスタンドが「ワアッ!」と沸き立ったときのあの感覚!今思い出しても鳥肌が立ちますね。

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ながさわさん:例えばほら、今このキャンプの練習中だって、打球の音も、ボールを受けるグローブの音も、こんなによく聞こえるじゃないですか。これこそがプロ野球本来の醍醐味で、ボクたちファンは、周りと一緒になって声援を送ったり、プラカードを掲げたりする以前に、野球そのものを楽しむ姿勢を育んでいくべきなんじゃないかと考えています。

 

見どころ満載の『プロ野球画報』を出版。
念願の球団入りなるか!? 今シーズンも乞うご期待

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ーさて、今回はながさわさんの「プロ野球論」みたいになってきましたが…話を少し戻して、今後の制作活動について聞いてみたいと思います。まず気になるのは、スワローズとの入団交渉の進ちょく状況ですが…


ながさわさん:ええ、今回の浦添キャンプの目的のひとつでもあったんですが、ヤクルトスワローズ浦添協力会が主催したキャンプイン前日の交流会で、衣笠社長に入団を直談判したんですよ。社長からは前向きな返事をもらえたので期待はしていますが、今のところ状況は同じですね。

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ーそんな苦境のなか、2014年に引き続き、スワローズ全試合のハイライトを描いた『プロ野球画報2015 東京ヤクルトスワローズ全試合』を2016年1月に出版されました。見どころを簡単に教えて下さい。

 

ながさわさん:ありがとうございます。先ほどもちょっとお話しましたが、2015年はイラストにひと言添えて、そのシーンに対するボクの個人的な感想を書きつづってきました。それからこの日はこんなイベントがあったとか、こんなユニークなファンの人と出会ったとか、グラウンド以外の情景もたくさん盛り込んでいます。だから実際に球場へ足を運んだことがある人なら、「そういえばこんなことあったね〜」と余計に懐かしんでもらえるのではないでしょうか。2015年シーズンの貴重な活動記録として、また2016年シーズンをより楽しむための情報資料として、価値ある一冊に仕上がったと自負しています。


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ーこれはスワローズだけではなく、日本プロ野球界にとっても貴重な本ですよね。これだけ詳細な活動記録を形に残した人は、いまだかつていないでしょうから。

 

ながさわさん:ありがとうございます(泣)。こうした活動にも目を向けて、ボクのような輩をチームの一員として迎えてくれるようになれば、自分も何かやってみようと思う人も出てくるだろうし、そういういろんなアプローチがあることで、プロ野球界がもっと活性化していくことにも繋がると思うんですよね。

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ながさわさん:でも、なかなか声が届かなくて…。それでもありがたいことに、ボクの活動を応援してくれる人が、全国に少しずつ現れてきました。2016年も東京での出版記念イベントに引き続き、2月6日にはここ沖縄で、ニコニコ生放送「スワいち!」の共演メンバーでもある笑福亭べ瓶さんと一緒に、那覇市のジュンク堂書店でトークイベント&サイン会を開くことができました。

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ながさわさん:沖縄の人をはじめ、各地からスワローズの春季キャンプに訪れた人も来てくれましたしね。浦添市民球場の観光ブースでもボクの本を置いてくれてたので、全国から来たスワローズファンにも少しは訴えたかな。そうだと嬉しいですね。


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ーそれでは最後に、全国の読者やスワローズに向けてメッセージをお願いします。

 

ながさわさん:2016年もこうして沖縄・浦添の地で、スワローズのキャンプインを無事に見届けることができました。プロ野球を楽しむ上で、春季キャンプを見学すると、応援する側も「今シーズンはここから始まるんだ」と意識が改まり、選手を準備段階から追い続けられるので、チームに対する愛着が例年以上に深まります。今年来られなかった人は、来年以降にぜひ見学しておくことをオススメします。間もなく新しいシーズンが始まりますが、セ・リーグ2連覇と悲願の日本一を目指し、それぞれの応援スタイルで力を合わせて、一緒に戦っていきましょう!

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