スワローズを描き続ける芸術家 ながさわたかひろ

公開日 2015/02/17

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ながさわたかひろさん。浦添とはと〜っても縁の深い芸術家。われらが東京ヤクルトスワローズの熱烈なファンであり、「チームを優勝に導くために、シーズン中は全試合、絵を描いて選手とともに戦う!」という稀有な創作スタイルの持ち主です。そして、チームの目標がリーグ優勝&日本一なら、ながさわさんの目標は「球団から正式に入団を認めてもらい、背番号をもらうこと!」と本気で公言。…もはや凡人の理解を超えた存在です(^_^;) とはいえ、個性的なお人柄そのものに、実力は(きっと)本物なんです。その証拠に、ながさわさんが描いたプロ野球シリーズの作品は、2010 年岡本太郎現代芸術賞特別賞を受賞し(当時の題材は東北楽天ゴールデンイーグルス)、昨年暮れには自身初の作品集『プロ野球画報』を出版。テレビ・雑誌などのメディアに取り上げられる機会も年々多くなってきました。

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浦添での春季キャンプにも2012年から毎年チームに帯同(?)し、市内でちょこまかと展覧会を実施。2015年も浦添学園通りにある7つの店舗で、ニッチなイラスト展「プロ野球画報in浦添学園通り」を開催するなど、じわじわと固定ファンを増やしています。そんなながさわさんに直接話を聞きたくて、2015年のキャンプ最中の2月上旬、浦添市民球場にてご本人を直撃。果たしてどんな話が飛び出してくるのか? 皆さんはどこまで付いてこられるのか? めくるめく「ながさわワールド」をとくとご覧ください!

 

楽天の最下位に自己を投影

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―プロ野球の絵を描き始めるようになったきっかけを教えてください
 

ながさわさん:話せば長くなるんですが…僕は東北・山形県の出身で、小さい頃からプロ野球にはそれなりの興味をもって親しんでいました。でもそれは、あくまでテレビの中の世界。東北、それも山形でプロの試合が行われることなんて、せいぜい2軍のゲームが年間ひとつふたつある程度。だから2005年に仙台に楽天球団が誕生したときは、そりゃ〜、ときめいたわけですよ。

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ながさわさん: しかもその年のドラフト1位のルーキーが、プロ入りをめぐってひと悶着あったあの一場靖弘投手だった。他のチームなら、まずは2軍でじっくり育成するんだろうけど、球団創設元年で選手層が薄かったから、いきなり1軍の先発ローテーションをまかされちゃった。 そんな一場と楽天に、強烈にシンパシーを感じたんです。当時の僕は、芸術で身を立てることを夢見ながら、まったく芽が出ない状態が続いていた。だから「お互いに頑張ろうぜ!」みたいに勝手に自己投影して、応援を始めたわけです。


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ながさわさん:野球の絵に取り組み始めたのは、その頃からですね。でも最初のうちは、何をどう描けばいいのかまったくわからなかった。僕は大学時代からずっと抽象画をやってきたので、「ものを見て描く」というトレーニングを久しくしていなかったんです。コツをつかむまでは随分と時間がかかりました。で、楽天はその年ぶっちぎりの最下位で、一場の成績も、周囲の期待からはほど遠いものだった。それが翌年に名将ノムさん(野村克也氏)が新監督に招かれ、就任あいさつで「これから3年かけて、優勝争いができるチームに育て上げる」と宣言したんです。その言葉を聞いて、ビビビッと心が大きく動かされたんです。「よし、オレも3年後には、納得のいく絵を描けるようになってみせる!」って。それからですね、楽天の試合を見て、最も印象に残ったシーンを表現するようになったのは。

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―え、最初は楽天の絵を描いていたんですね。それではいつ、どうしてスワローズに鞍替えしたのですか

 

ながさわさん:ノムさんが2009年に楽天の監督を退き、一場がスワローズへ移籍したことが、直接的な理由です。 楽天はノムさんの公言通り、いや実際には1年余分にかかりましたが、2009年にパリーグで優勝争いを演じ、日本シリーズ進出まであと一歩のところまでいきました。僕自身もね、ようやく自分の描く絵に手応えを感じ始め、「チームの力になっているぞ!」という実感があったんです。そしてシーズン終了後に、楽天の全試合分のイラストをノムさんに直接手渡したことで、とりあえず一区切りついた気がしました。このときの作品は美術界からも一定の評価を受け、岡本太郎現代芸術賞特別賞までいただくことができましたからね。

 

描くことでチームの力に

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ながさわさん: ところが2010年、思いがけない悪夢が待っていました。楽天からスワローズへ移籍した一場を追って、何となく絵を描き続けていたのですが、この年のスワローズは絶不調。開幕から2カ月もたたないうちに、当時チームを指揮していた高田監督が辞任に追い込まれてしまったんです。いやあ、責任を感じましたよ…僕の慢心がチームに災厄をもたらしたんだって。そこからは心を入れ替えて、どうすればスワローズの力になれるのかを自問しながら、改めて絵と向き合うようになりました。


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―ながさわさんのお話を聞いていて面白いのは、「絵を描くことでチームに貢献する」という考え方です。この発想はどこから生まれてきたのでしょうか

 

ながさわさん: 例えば観客席で、応援歌を歌ったりメガホンを振って声援を送るファンの人たちは、そうすることがチームの力になると信じて球場に足を運んでいるわけですよね。それと同じように、僕はたまたま芸術の世界で生きてきた人間だから、自分が最も得意とする絵画の力を使って、応援に参加しているだけです。それにプロ野球選手にとって、やっぱりファンからの声援は一番の励みになるわけでしょう? だったら同じ絵を描くにしても、どうすれば選手の心に強く深く届くのかを考えるのは、自然なことだと思うんです。

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ながさわさん: 創作のスタイルは毎シーズン手探りしながら、少しずつ改良しています。最も大きく変わったのは2012年。以前はすべて版画で制作していたものを、ペンと色鉛筆に持ち替えました。なぜ最初は版画だったのかといえば、単純に大学での専攻がそうだったというだけなのですが…。で、版画で唯一ネックだったのが、単色でしか表現できないことだったんです。ほら、プロ野球って、球団ごとにチームカラーがあって、背番号の色も遠くから見て最も目立つ色に決められたりするわけじゃないですか。つまりプロ野球の絵を描く上で、色彩はとても重要な要素じゃないかと考えるようになったんです。でも色を付け始めた途端、チームは2年連続最下位ですからね(苦笑)。方向性は間違っていないと思うので、今はそれ以外の改善点を模索中です。

 

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―あの、ちょっと聞きづらいことなんですが…そこまでスワローズの絵を描くことに熱中していると、普段の仕事に支障はないのでしょうか…というか、ぶっちゃけどのように生活されているのでしょうか

 

ながさわさん:よくぞ聞いてくれました!もう悲しいくらい、本当に貧乏してますから!今はスワローズの試合観戦&創作が生活の中心で、あとは大学で非常勤講師などをしながら、何とか食いつないでいます(笑)。レギュラーシーズン中は144試合全ゲーム、リアルタイムで観戦しています。神宮球場で行われるスワローズのホームゲームは、3割程度は球場まで足を運び、それ以外はテレビで見ています。用事があって出かけていても、プレイボールの時間には必ずスタンバイできるよう生活リズムを整えているんです。ビデオに録画して、早送りして見るようなことはしていません。野球、とくにプロ野球は試合時間がとても長いスポーツで、ゲームセットまで4時間以上に及ぶこともあります。でも、長時間を要するのはそれなりの理由があって、プレー以外の場面もきちんと見ていかないと、野球の本当の面白さは分からないし、絵の中でそれを正確に表現できないと思うんです。最初の頃は試合があったその日のうちに描き始めていたのですが、今は翌日制作しています。試合終了直後は僕自身、ちょっとした興奮状態なので、一度クールダウンしたほうが、そのゲームの本質をつかみやすいんです。午前中から始めて、描き終わるのは試合開始前ギリギリだったりしますね。

 

今季の東京ヤクルトスワローズ、
そして「ながさわたかひろ」に期待!

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―なるほど、まさに選手と一体となって戦っているわけですね…それでは今シーズンに向けての意気込みと抱負をお願いします

 

ながさわさん:最近は作品の構成を少し見直して、グラウンド以外の球場の雰囲気や、ファンの人たちの様子も絵の中に盛り込んでみようと考えているんです。そのほうがおそらく、球団や選手にとっては新鮮だし、たくさんのファンに支えられていることを知るきっかけにもなって、実際に励みになると思うんですよね。そして昨シーズンはね、自分なりに「お、いい絵が描けてきたぞ!」という感触がつかめてきたんです。だからきっとスワローズも、今季こそは期待できると思いますよ。シーズン終盤になって、チームが優勝を目指して突き進み、僕自身も毎日気持ちを高ぶらせながら創作していければいいですね。

 

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ながさわさん:入団交渉は、球団には毎年門前払いされていますが、粘り強く諦めずに続けますよ。いや、別にね、球団お抱えの芸術家になって年俸がもらいたいとか、そういうことじゃないんですよ。ほら、つば九郎だって背番号があるでしょう? それと同じで、3桁でも4桁でもいいから正式に背番号をもらえれば本望なんです。そうすれば、プロ野球に関心がない人でも「ヤクルトは面白いことをやっているなあ」と興味を持ってくれるかもしれないし、現在ファンの人たちだって「こういう応援の仕方があるのか!」と気づいて、今度はまったく違う形の応援スタイルを編み出してくれるかもしれない。ファンの裾野を広げる一つのツールとして、「ながさわたかひろ」という人間を自由に使ってくれればいいのに、と思っています。

 

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―最後に、浦添市民とスワローズファンに向けてメッセージをお願いします!

 

ながさわさん: 沖縄は一度も訪れたことがなかったのですが、浦添市とのご縁でこうして毎年来させてもらい、展覧会やトークイベントを開く機会も与えてもらいました。また何より僕にとっては、長い長いペナントレースに向けて、選手と同じ場所で一緒に始動できることが、本当にありがたいですね。そして僕でよければ、浦添市のお役に立てるようにもっともっと頑張りますよ!今日だって、ほら、空席がこんなにあるのは実にもったいないなあと思うんですよ。本土ではこんな至近距離で、プロ野球選手の練習風景が見られることなんて、まずあり得ませんから。スワローズキャンプの誘客拡大に向けて、みんなで知恵を出し合って盛り上げていければいいですね。僕は今シーズンも1年間、東京で絵を描きながらスワローズを応援します。浦添、そしてスワローズファンの皆さんからもぜひ熱い声援を送ってもらい、優勝&日本一を目指して一緒に頑張りましょう!

 

「プロ野球画報 in 浦添学園通り」
2015年2月26日(木)まで開催中!

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さて、ということで、ながさわたかひろさんの魅力をたっぷりご理解いただけたでしょうか。キャンプインに先駆けて先日行われた「東京ヤクルトスワローズ交流会」や、今回のインタビュー中にもスワローズファンから声がかかる場面がちらほら。1試合、1試合、スワローズとともに闘い続けるながさわさんのパフォーマンスアート(?)に、共感や尊敬を覚えるファンも多いようです。キャンプ期間中、浦添市ではそんなながさわさんの作品に間近に触れることができるイラストパネル展を開催中! 浦添市民球場からほど近い「学園通り」の7店舗に展示されていますので、ぜひ足を運んでみてください!

 

▼イラストパネル展の詳細はこちら

 

プロ野球画報 in 浦添学園通り

 

☆リンク先のPDFをプリントアウトして持参しよう! 開催店舗利用でワンサービスがあるほか、 スタンプを2個集めると、商品券や泡盛が当たる特典も!

 

プロフィール

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お仕事 絵描き、版画家、講師
出身 山形県東根市
年齢 42歳
略歴 2000 年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻版画コース修了。2005年プロ野球を題材にした創作活動を始め、2010年から東京ヤクルトスワローズのイラスト制作に専念。2014年12月には、シーズン中のスワローズ全試合のハイライトを描いた『プロ野球画報』(ぴあ株式会社)を刊行。沖縄では2013年と2014年「プロ野球ぬりえin浦添学園通り」、2015年「プロ野球画報in浦添学園通り」を開催。うらそえナビスタッフ界隈で今、最も注目を集めるホットな人物として、今季の活躍が期待されている。
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