監督が語る『シネマ組踊・執心鐘入』の裏側と組踊の未来

公開日 2015/01/16

1412interview_bn

2014年に公開した『シネマ組踊・二童敵討(にどうてぃちうち)』、そして今年2月に公開される『シネマ組踊・執心鐘入(しゅうしんかねいり)』の監督を務めた大城直也監督。初めて組踊の映像化にチャレンジした大城監督に、伝統芸能の舞台を映画にする難しさと面白さについてお話を伺ってきました。CMディレクターやプランナーとしても活躍する大城監督ならではの視点は興味深く、組踊の新しい取り組みや将来に向けての提案、撮影時のマル秘エピソードも飛び出しました。(写真提供:シネマ組踊製作委員会)

 

新しい手法も取り入れた2作目

1412interview01

─映画監督になられたきっかけを教えてください。



大城監督:僕は糸満出身なんです。今は糸満に映画館はありませんが、昔は3つ映画館があって、東映の3本だてなど邦画しか上映していなかったんです。だから小さいころは邦画ばかり観ていて、菅原文太さんのトラック野郎が好きでしたね。ちゃんと映画を観始めたのは、高校を卒業して、東京の専門学校に進学してからですね。何となく、そういう映像の世界に行きたいなという思いはありましたし、暇つぶしにもいいので、年間50本とか100本くらいは観ましたかね。僕は基本的にCMディレクターなんですけど、ストーリーが軸になっているCMが好きだったので、沖縄では長いCMが少ないのですが、それを意識して作っていました。仕事を初めて4~5年たったころ、1分くらいのストーリー性のあるCMを作ったことがあって、「これが長くなったら映画になるのかなぁ」と漠然と思っていました。

 

─「シネマ組踊」の監督を依頼された時はどう思いましたか。

 

大城監督:僕は脚本の才能がないと思うんですよ。

 

─いやいや、そんな事ないですよ。脚本も書かれた2本の映画も素晴らしかったです。

 

大城監督:脚本って、理数の頭じゃないとダメなんですよね。この後に話がどうなっていくかとか、ロジックがちゃんと頭の中に入っていないといけない。思いだけで書くと収拾がつかなくなっていくんです。だから「マサーおじいの傘」(沖縄県産映画「琉球カウボーイ、よろしくゴザイマス。」の中の1編)、「ニライの丘・A Song Of Gondola」は、ホントにキツかったです。吐きそうになるくらい。もうあれ以上のものは書けないですし、書きたいとも思いません。それに比べて「シネマ組踊」は、玉城朝薫が書いた脚本があって、それを撮るだけですから。一昨年の「二童敵討」の時もいろいろ考えたんですけど、舞台は好きだったんですよ。「丘の一本松」をテーマにした「ニライの丘」もそうですけど、すでに演じられている方が映像化しやすいと漠然と思っていました。沖縄には、うちなー芝居など、まだまだ題材がいっぱいあるんですよね。ただ、それまで組踊の事をほとんど知らなったので、僕でいいんですか?と何度もプロデューサーに聞きましたが、「全く新しいものを作りたい」という依頼だったので、それならばと引き受けました。

1412interview02

─映画化に向けてこだわった点はどこですか。

 

大城監督:この「シネマ組踊」って、言い換えれば組踊のCMみたいなもんですよね。組踊を観るきっかけになる映像ということです。資料映像を観させてもらった時に、やっぱり定点で撮られている映像しかないんですよ。学習のために観るならいいんですけど、そういう記録ビデオにはしたくなかった。だから、今までにないお客さんの目線で撮りたいと思いました。観客を入れないで撮影するということだったので、照明も含めて、そういう世界観で撮影しました。

1412interview03

─2作目の「執心鐘入」で、新しくチャレンジしたこともあるのですか。

 

大城監督:前回の「二童敵討」にはなかったふ瞰の絵を入れたり、登場人物の主観ショットを入れたりと、舞台ではありえない映像も取り入れました。今回は、カメラワークや編集もホラー映画に近い手法で撮っています。「執心鐘入」は真っ暗な夜中の話なので、照明もめちゃくちゃ暗くしました。逆に後半は、雷みたいに光をパカパカ激しく点滅させていますよ。女の心の移り変わり、念みたいなものがどう変わっていくかを、おどろおどろしく表現しています。

 

─舞台では一方向からしか観れないですから、映画ならではのアングルがどうなっているのか楽しみです。

1412interview04

─撮影のエピソードを教えてください。

 

大城監督:宿の女を訪ねた若松が泊めてくれと頼むシーンがあるのですが、その時女の姿は見えなくて、声だけなんですね。 提灯を持った手だけが出ているんです。そこを僕はシルエットで表現しようと思っていたんですが、途中でドン!と女の姿を映したんです。その方がすごく登場感があっていいんじゃないかと思って。でも、宿の女を演じている佐辺良和さんは、「そこは映っていると思っていなかったので、使わないでほしい」と頼まれました。ちゃんと説明をしなかった僕たちが悪いんですけど、舞台袖で待っている状態を使うのはタブーだと知っていて、敢えて入れてみたんですけど…、そこは直しました。僕がなぜその映像を使ったかと言うと、そこはお客さんの目線なんです。舞台袖って、お客さんからも少し見えている可能性がありますよね。それ見たいですよね(笑)。

1412interview05

─そうですね。ちょっと見てみたいです(笑)。

 

大城監督:実は、1作目の「二童敵討」を撮る前に、佐辺さんが出演している「執心鐘入」の舞台を観たんですよ。もう佐辺さんしか印象に残っていないんです。「あ!この人を撮りたいな」って思って。最初は女性だと思っていたんですが、実は男性が演じていた。こういうところをもっとPRしたいと思って、「二童敵討」の撮影が終わった後、「来年は絶対『執心鐘入』を撮らせてください」ってお願いしていました。

 

─そんな思い入れのある「執心鐘入」がどんな作品に仕上がっているのか、公開が楽しみです!


1412interview06

1412interview07


海外進出で組踊の魅力をPR

1412interview08

─「シネマ組踊」2作品を監督しての感想をお聞かせください、

 

大城監督:今回カメラを3台入れたのですが、カメラを増やしたことによって、背景のなかに舞台袖が見えてきちゃったりするんですよね。リハーサルは舞台ではなく稽古場などでやるので、実際に舞台で撮ってみないと分からないことがたくさんありました。舞台は平面的に一方向から観ますが、映像はいろいろな角度から撮れるから、逆にいろいろな物が見えてきてしまうんですよね。だからね、いっそ外で演じた方がいいんじゃないかと思って(笑)。

 

─野外劇場ですか?

 

大城監督:昔みたいに首里城の御庭とか、入り口でも。とにかく城壁があればいいんですけど。

1412interview09

─実際に組踊が上演されていた首里城はいいですね。組踊に縁の深い浦添市って事で、浦添城跡や浦添ようどれもいかがですか。

 

大城監督:いいですね。映像も、学校などもっといろいろなところに貸し出して、上映してほしいです。その映像を観て「カッコイイ!」「生で観てみたい」と思って劇場に足を運んで、リアルな空気感を感じてもらえたらうれしいですね。他には、海外の映画祭にも出品してほしい。伝統文化を大切にする精神が根付いているところ、例えばヨーロッパなどでは、組踊の素晴らしさや美しさを理解してもらえるかもしれませんよね。『シネマ組踊・二童敵討』、『シネマ組踊・執心鐘入』の2作品を海外の映画祭に持って行って、役者さんも一緒に行って組踊の説明をしたり、実演をしたりってできると思うんです。その組踊に縁のある場所として、浦添市をPRしてもいいと思いますよ。海外には舞台だけの映画祭などもあるので、そういう映画祭だとバイヤーのみなさんにも興味を持ってもらえそうですね。

1412interview10


踊り奉行復活!? 仰天のアイデア!!

1412interview11

大城監督:自分の子どもたちの世代も含めてなんですけど、組踊の役者が職業の選択のなかに入ってくるといいなと思います。他のスポーツなどのように学校に組踊クラブがあってもいいし、もっとわかりやすく言えば、芸能事務所に組踊部があってもいいと思うんです。僕は組踊の勉強をほとんどしていませんでしたが、こうして「シネマ組踊」の監督をすることによって組踊に携われて、誇らしく思えています。組踊の事を知ることによって、受け継がせていくというよりも目指せる環境をもっと作っていかなくてはと思いますね。

 

─そうですね。組踊の魅力をもっとみなさんに知ってもらいたいですよね。

 

大城監督:そのためには、役者さんたちを守っていかなくてはとも思いますよ。いっその事、準公務員みたいにして、役所に組踊課って作ってみてはどうですかね。組踊の産みの親である玉城朝薫も公務員ですからね。

 

─あはは、そうですね。琉球王朝の公務員ですね(笑)。

 

大城監督:もうひとつは、組踊の役者さんたちがオファーさえあれば、ドラマやCMなどにも積極的に出演してもらいたいと思います。歌舞伎役者のように、もっともっと露出を増やす事によって、「この人誰だろう?」「組踊の役者だよ」って興味を持ってもらって、組踊の普及に繋がればいいですよね。そうしたら、組踊の役者が憧れの職業のひとつになるかもしれない。間口を広げると、どんどんいい人材も集まってくるかもしれませんよ。

 

シネマ組踊「執心鐘入」の予告編映像も、以下のfacebookページからどうぞ。
https://www.facebook.com/kumiodori


1412interview12

「執心鐘入」あらすじ
美少年として名高い中城若松は、首里王府へ奉公に向かう途中闇夜に迷い、一夜の宿を乞います。女は、相手が若松だと知ると喜んで家に招き入れ、言い寄るのでした。女を罵倒して自尊心を傷つけてしまった若松は身の危険を感じ、女を振り捨てて末吉の寺の座主に助けを求め、鐘の中に隠れます。若松を追って寺にやってきた女は鐘にまとわりつき、ついには執着のあまり鬼女へと変身します。

 

『シネマ組踊・執心鐘入』完成記念 無料上映会

1412interview13

ユネスコ無形文化遺産にも登録されている「組踊」の魅力をより多くの方に伝えたいという思いから、昨年誕生した「シネマ組踊」。2015年2月には、いよいよその第二弾『シネマ組踊・執心鐘入』の無料上映会が開催されます(字幕付き)。この上映会では、昨年公開された『シネマ組踊・二童敵討』も合わせてご観賞いただけます。沖縄が誇る伝統芸能に気軽に触れることができるこの機会を、みなさま、ぜひお見逃しなく!

 

ご予約は不要ですが、先着順での受付となります点はご了承ください。

 

▼上映会の詳細はこちらからどうぞ。
『シネマ組踊・執心鐘入』完成記念 無料上映会
 

▼シネマ組踊 facebookページ
https://www.facebook.com/kumiodori

 

プロフィール

1412interview14

名前
大城直也(おおしろ なおや)さん
お仕事
映画監督、CMディレクター、プランナー
出身
糸満市
年齢
49歳
主な作品
■映画
2007年「マサーおじいの傘」脚本・監督(2007年韓国プチョン国際ファンタスティック映画祭正式招待作品)
2010年「ニライの丘・A Song Of Gondola」脚本・監督(第2階沖縄国際映画祭出品作品・吉本興業株式会社制作作品)
2014年「シネマ組踊・二童敵討」監督
2015年「シネマ組踊・執心鐘入」監督
■TVCM
琉球銀行、ローソン沖縄、沖縄美ら海水族館、オリオンビール、沖縄アウトレットモールあしびなー、琉球リース、オキハム、沖電工、丸善組、住太郎ホーム、au沖縄セルラー、etc
メッセージ
「シネマ組踊」を観て組踊のことを知っていただき、ぜひ、劇場で生の舞台を観てくださいね。

※この記事はに作成されました。公開時点から変更になっている場合がありますのでご了承ください。