軽便鉄道「浦添」ものがたり~かつて沖縄に走っていた「沖縄県営鉄道」の痕跡をたどる旅~

公開日 2021/12/15

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うらそえナビをご覧のみなさま、こんにちは。
突然ですがみなさまは、かつて沖縄に汽車が走っていたことをご存知でしょうか。
それは時をさかのぼること100年以上、第二次世界大戦以前の沖縄本島でのお話です。

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1943年ごろの沖縄県営鉄道 与那原駅前での記念撮影の様子

1914(大正3)年に誕生した軽便鉄道「沖縄県営鉄道」は、「シッタンガラガラ」と音をたて、「アフィー・アフィー」と汽笛を鳴らしながら沖縄各地を駆け抜け、1945(昭和20)年に沖縄戦で消失するまで約30年もの間、沖縄の主要な交通機関の一つとして活躍したのです。今回は、沖縄の軽便鉄道の歴史をたどり、今もその痕跡を留める浦添市近隣のスポットをいくつかご紹介していきましょう!

【目次】

・大正〜昭和初期の沖縄の主要交通機関「軽便鉄道(けいべんてつどう)」とは

・浦添、那覇、与那原。軽便鉄道の貴重な史跡を訪ねて

・鉄道ファンや歴史好きにおすすめしたい、+アルファのうらそえ旅

 

【本文】

|大正〜昭和初期の沖縄の主要交通機関「軽便鉄道(けいべんてつどう)」とは

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那覇市・壺川東公園の軽便鉄道の鉄軌道の様子

と、その前に…。 「そもそもで軽便鉄道ってなに?」と、画面の向こうで首をかしげている方もいらっしゃるのではないかと思います(笑)。「軽便鉄道」とは明治維新以降、急速に近代化が推し進められた日本で、地方のインフラ整備を促すための「軽便鉄道法」にもとづいて敷設された鉄道のことです。国有鉄道よりも規定が緩く、鉄道の規模も小さかったため、自治体や企業による小資本での建設や運営が可能でした。

線路幅が細く車両が小さかった分、安定性が低い、スピードが出せない、多くの車両を連結できないなどのデメリットもあったそうですが、それでも当時の人びとにとってみれば「文明開花、ぱねぇ〜!」といった時代のトレンドだったはず。軽便鉄道は日本各地で運行され、さまざまな名称で呼ばれていたようですが、沖縄県民の間では「ケイベン」がなまり、「ケイビン(ケービン)」という愛称で親しまれていました。

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沖縄県営鉄道の路線図

沖縄での軽便鉄道の歴史は、1914(大正3)年、商業中心地にあった那覇駅と東海岸の港町であった与那原駅を結ぶ与那原線(約9.4km)の開通が始まりでした。1922(大正11)年に那覇から北上する嘉手納線(約23.6km)が、1923(大正12)年に那覇から南下する糸満線(約18.3km)が開通すると、軽便鉄道は沖縄本島広域の要所を結ぶ産業振興の要となりました。

鉄軌道が敷かれたことで、当時の基幹作物であったサトウキビの運搬や、沖縄本島北部から切り出され、船で与那原港に運ばれた木材の陸上輸送が容易になっただけでなく、大量の旅客を乗せることも可能に。沿線の多くの学生や商人もこの鉄道を利用したといいます。

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1945年 砲弾を受けて廃墟となった与那原駅

沖縄県の物流を担い、一時は本島北部への延伸が議論された軽便鉄道ですが、昭和の初めに県道が整備されてモータリゼーションが進むと、陸上交通の花形として乗合自動車(バス)が台頭しはじめました。軽便駅は那覇〜糸満・嘉手納の競合区間で旅客の減少がみられ、自動車の脅威にさらされることとなります。

その後、1941年に太平洋戦争が勃発。沖縄にも不穏な空気が漂い始めた1944年ごろ、日本本土の部隊が那覇に上陸し、軽便鉄道は県民の足から軍用鉄道へとその役割を変えていきました。そして、沖縄戦によって壊滅的な被害を受けた1945年、軽便鉄道「沖縄県営鉄道」はついにその姿を消すことになったのです。

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那覇空港から浦添市に伸びる沖縄都市モノレール

戦後は、復興のために米軍によって道路網がいち早く整備されました。そのため県民の間でも戦前からあった乗合自動車だけでなく、自家用車が普及していきました。軽便鉄道はといえば、1950年代の朝鮮戦争特需による「スクラップブーム」で、車両やレールの残骸が拾い集められ、ほとんどが日本本土に輸出されてしまったそうです。

続く高度経済成長下で沖縄はますます車社会になり、次第に渋滞問題が深刻化していきます。その解消を目的に2003年に誕生したのが新たな沖縄の鉄道「沖縄都市モノレール(ゆいレール)」です。開通時は那覇市内の15駅を結ぶ路線としてスタートしましたが、2019年に浦添市に3駅延伸し、現在、さらなる路線延長計画が進んでいます。

|浦添、那覇、与那原。軽便鉄道の貴重な史跡を訪ねて

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さて、かなりダイジェスト版で沖縄の軽便鉄道の歴史をご紹介しましたが、実は「沖縄県営鉄道」は廃業届けが出されぬまま現在に至っている鉄道なんです。もしかしたら沖縄に軽便鉄道が復活する!? なんて日が来るかも? そんなことを想像しながら、現在の沖縄を巡ってみる旅もなかなかにロマンがあると思いませんか。

ということで、続いては沖縄に現存する希少な軽便鉄道関連スポットをご紹介していきましょう。まずは浦添市のご紹介。そして、那覇市から与那原町。車なら半日程度で周遊できるはずなので、鉄道好き・歴史好きな方は、ぜひレアでマニアックな沖縄観光を楽しんでみてくださいね。

●軽便鉄道モチーフの欄干(ファミリーマート浦添高校前店付近)●

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浦添市へようこそ! 浦添市内には那覇から北向けに走る嘉手納線の内間(うちま)・城間(ぐすくま)・牧港(まきみなと)の3駅がありました。浦添を走っていた軽便鉄道の道床の一部には、戦後、米軍のジェット機燃料を送油するための鋳鉄製油管が地下に敷かれ、この送油管は「パイプライン」と呼ばれていました。

那覇市・浦添市・宜野湾市をつなぐ幹線道路「沖縄県道251号」はパイプラインの名残り。沖縄県民の間では、現在も「パイプライン通り」という名で親しまれています。写真はパイプライン通りの起点近くから浦添方面を望んだもの。この近くにはかつて軽便鉄道の内間駅がありました。

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このあたりを通る際に、ぜひ注目して欲しいのがファミリーマートの看板の横にある小さな橋です! 橋の欄干が軽便鉄道をモチーフにしたデザインになっているという、超マニアックな浦添観光スポットです(笑)。

●軽便鉄道線レール・パイプライン標識(浦添市・屋富祖郵便局向かい)●

軽便鉄道モチーフの欄干から車で約2km

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かつての軽便鉄道の軌道に沿ってパイプライン通りをゆったりと北向けにドライブして行きましょう。
2キロほど進んだ先で見ることができるのは、なんと軽便鉄道の線路跡!

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かつての内間駅と城間駅の間、現在の「大平特別支援学校前」の那覇向けバス停付近です。

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線路跡に設置された地図には、先ほどの内間駅付近から、この線路跡付近まで軽便鉄道の線路がパイプラインと並行して走っていたことが示されています。軽便鉄道が走っていた時代に思いを馳せながら、パイプライン通りをドライブしてみるのも貴重な経験になるのではないでしょうか。

浦添市に走っていた軽便鉄道がどこから走ってきたのか、那覇市、与那原町に現在も残っている史跡を辿ってみましょう。

●壺川東公園●

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かつての那覇駅と古波蔵駅の間に位置する壺川東公園には、公園の工事の際に出土したレールが一部残されています(復元部分もあり)。さらにこの公園のおもしろいところは、南大東島でサトウキビの運搬に使われていた日本最南端の軽便鉄道「シュガートレイン」が展示されていること。

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車両はディーセル車と蒸気機関車の2種類あります。蒸気機関車の煙突やタンクは残っていませんが、公園内の説明版には「車輪の連結棒が蒸気機関車の面影を残している」とありました。

●軽便鉄道 転車台跡(那覇駅跡)●

壺川東公園から車で約1km

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軽便鉄道の那覇駅があった場所は現在、那覇市・旭橋周辺地区の再開発により那覇バスターミナルや県立図書館などが入った複合施設になっています。施設は沖縄都市モノレールの旭橋駅とも直結していて、今も変わらず沖縄の公共交通機関の要所。那覇の観光スポット・国際通りからも徒歩でアクセスできるので、沖縄観光の始まりや終わりに立ち寄るにもいいかもしれません。

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沖縄を走っていた軽便鉄道は3路線。那覇駅はそのすべての起点であったため、鉄道が走っていた当時はかなりの賑わいをみせていたそうです。写真は再開発中に発見された転車台跡(那覇バスターミナルから徒歩すぐ)。転車台があったのは那覇駅だけで、ここは当時の駅構内の北側にあたる場所です。

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転車台の遺構が展示されているエリアには軽便鉄道のミニチュア模型も!

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転車台の周囲には、那覇駅をはじめとする軽便鉄道駅の写真なども展示されていて、当時の様子を偲ぶことができます。

●与那原町立 軽便与那原駅舎●

那覇空港から車で約17km

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与那原線の終着駅・与那原駅を復元して展示資料館にした沖縄の軽便鉄道のランドマーク的スポットです。今回、ざっとご紹介した沖縄県営鉄道のよりディープな歴史に加え、馬車軌道や路面電車といった沖縄の鉄道全般の歴史を写真や映像、年譜などで紹介。旅の始まりに訪れるのにぴったりな場所です。

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軽便与那原駅舎の見どころはなんといっても施設裏手に現存するコンクリート製の9本の柱跡。国の登録記念物(遺跡関係)にもなっているこの柱付近からは、当時の線路も発見されたそうです。

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戦後、与那原駅舎は修復や改装を重ね、与那原町役場やJAの施設として利用されました。柱跡のコンクリートが3層になっているのがお分かりいただけるでしょうか。中心部のもっとも古いコンクリートと鉄筋が与那原駅時代の遺構です。

以上、浦添、那覇、与那原に至る軽便鉄道関連の名所を5ヶ所ご紹介しましたが、ここで一つお願いがあります。今回ご紹介したスポットはほとんどが住宅街や市街地、道路脇にあります。訪れる際には、交通ルールや観覧マナーを守り、安全を心がけて行動くださるようお願いいたします。

|鉄道ファンや歴史好きにおすすめしたい、+アルファのうらそえ旅

さて、沖縄を走っていた軽便鉄道「沖縄県営鉄道」の歴史、いかがだったでしょうか。最後に浦添市をもう少しゆっくり散策してみたい方のために、プラスアルファの旅のプランをご紹介して、この記事の締めくくりとしましょう。沖縄県民も意外に知らないディープな沖縄を発見する旅、存分に楽しんでいただければうれしい限りです。

●モノレール+シェアサイクルで浦添を巡る半日コース

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Re Member URASOE 〜古に思いを馳せる新しい旅~

●琉球王国にまつわる日本遺産をめぐる、首里〜浦添への半日プラン

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「日本遺産 浦添」をめぐる。琉球王国の成立から繁栄までを偲ぶノルタルジック歴史さんぽ

●浦添から宜野湾・北谷へ! 海沿いをゆったりドライブプラン

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グルメ&ショッピング、サンセットにおしゃれスポット!海を見ながら快適なドライブが楽しめる浦添西海岸旅のススメ

●歴史好き女子にもおすすめ。レトロアメリカンなカフェ&雑貨屋さんがあるショピングエリア

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レトロかわいい通りに注目ショップが集中する「港川外人住宅街(港川ステイツサイドタウン)」-その楽しみかた・アクセス方法までエリアを徹底解説

取材協力:与那原町立 軽便与那原駅舎
参考文献:『図説 沖縄の鉄道〈改訂版〉』(有限会社ボーダーインク刊)

※この記事はに作成されました。公開時点から変更になっている場合がありますのでご了承ください。